もし、旦那さんが突然農業したいと言い出したら
あなたはどうしますか?
まったく予想もしなかった、夫の農業への転職。
夫といっしょに味わう、まさに人生のどんでんがえし。
妻の立場からのドタバタ模様です。

2003年4月、主人は小諸の農業大学校の寮に引っ越しました。

そして私は主人の研修が終わるまで主人の実家に居候させていただき、
仕事を続け少しでもお金を貯めることにしました。

あの時はホント寂しかったな。
主人は羽が伸ばせて楽しかったでしょうが・・・。

そうはいっても私の農業に対する偏見はまだまだ解消されたわけではありませんでした。
このまま主人が研修を終えた時、自分には出来るのだろうかと常に葛藤していました。

そんな別居生活も半年ほど経った連休に、研修中の主人に会いに行くことになりました。

佐久平の駅で長野新幹線を降りて主人に会った時、とっても明るい表情でした。
それから車で農大に案内してくれました。

いつも通っているスーパーやコンビニの話、景色の話を楽しそうに主人は話してくれるのですが、
私はなんだか暗い気持ちだったことを、覚えています。

農大に着いて、引っ越しの時以来だった寮に入るとやっぱりボロボロの寮で
「こんなところで生活しているなんて・・・」と増々悲しくなりました。

でも、主人は共同台所での自炊の話や夜になるととても静かで、
風と木々のザワザワした音しか聞こえないことなどを、
とても楽しそうに話してくれました。

不思議なことにその話を聞いているうちに主人がなんだか微笑ましく見えてきました。
研修の話や農業に対する思い、そして出会った人たちの話を目を輝かせて話してくれる主人が
頼もしくも見えてきました。そして心配していた私が変なのかな?とさえ思えてきました。

少し農大の敷地内を歩いているとき、ふと雄大な浅間山が目に飛び込んできました。
オレンジ色の夕陽に照らされた浅間山はとても温かく見えました。

ちょっと冷んやりした風にあたりながら浅間山を眺めていたら
「ま、いいか」という大きな気持ちになれたのが不思議です。

なんだかわからないけれど、夢に向かって生き生きとしている主人を見て
応援したくなる気持ちになるのは自然なことだと思います。
その、自然に湧き上がってきた気持ちに素直になろうと思いました。
でもその夢がなんでよりによって農業なのよ!?という気持ちは心の隅にありました

そして、そう思った翌日、私を変えた決定的な出来事が起こりました。
その当時主人の研修先、「てんけい農園」に行ったことです。

てんけい農園の小宮山夫妻は私達よりずいぶん若く、とても可愛らしいご夫婦でした。
そして元気な可愛いお子さんがお二人。
「こんな若い人が・・・。」と正直ビックリしました。
そして私には家族4人がとてもピカピカと輝いて見えたんです。
なんででしょう?今でも不思議です。

その時、ご主人のてんけいさんは体調を崩されており、
決して良い状態ではなかったのですが私にはとても格好よく見えたのです。
主人も「激転職~」のページで書いていますが、
てんけいさんの「証」がさまざまなところに見えてくる。

新規就農で入った地域に、地に足を踏ん張って
根っこを張って生きているという様が伝わってきました。

そして、子供たちも鼻水を垂らして泥だらけでしたが、
はち切れんばがりの笑顔がなんともいえず
今思い出しても涙が出てくるくらい可愛いかった。

畑で採ったばかりのカブを洋服の袖で土を払い、
かぶりついて「あま~~~い!!よしえさんも食べる?」
と差し出してくれ、食べると本当に甘くて「柿みたいだね、白いからソフトクリームかな」と
ゲラゲラ笑ったことを今でも覚えています。

そして、私の人生を変えたと言ってもいいくらいの人物は奥さんの奈穂さんでした。

ご主人をしっかりと支え、子供たちにはおおらかなお母さん。
このピカピカ輝いている家族の中心が奈穂さんでした。

私は彼女の何気ない言葉や雰囲気などから
「夫婦で力を合わせて同じ仕事をするっていいな」と感じ始めたのです。

とにかく、てんけい農園の素敵なご夫婦に出会って
『農業もいいかも』と思い始めたのは事実です。

そこからは気持ちの切り替えが早い私。 東京に帰ってから、なんで農業が嫌なんだ?とひたすら考えました。

そうするうちに農業を他の仕事とかなり「区別」していたことに気づきました。

「農業、農業っていうけど、結局自営業なんだ、物を作って売るという点では
パン屋さんやケーキ屋さんレストランと考えは変わらないのでは?」と思いました。
だったら自分次第でどんなスタイルにもできる、自分達次第で道は開けると!

今思えば、そんなこと当たり前じゃん、と思うことなのですが、
当時の私には、まさに目からウロコの気づきでした。
それくらい、「農業」という職業を知らず、ただ勝手に悪いイメージを作り上げていたのです。
まったくおバカな話です。

会社なら企画書を書き上司に許可をもらったりプレゼンしても
なかなか自分のたてた企画を実現させるのは難しいでしょう。
でも、家族経営規模の農業なら主人を納得させれば自分の企画は通ります。
どんなスタイルの農家になりたいか、ビジョンを夫婦でしっかりと持てば
それに向かって進むのみです。

そう思ったら思いはもっと急加速。
どんな農家になろうかと考えるうちにワクワクするようになりました。

こうして、私は農業をやることになったワケです。


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