まったくのど素人からスタートした土肥農園。
音楽に人生をかけていた男が、

すいか1個に情熱を注ぐまでに
なにが起こったのか!
かなりの長文ですが、

その人生が劇的に変わる
ドタバタ模様におつきあいください。

03年4月より農業研修生活が始まった。
妻は東京の私の実家に居候させてもらい仕事を続け、私は妻からの仕送りで研修生活をおくる、
情けない「ヒモ研修」のスタートだ(笑)。

住まいは長野県小諸市にある県農業大学校にある、近代化センターという、
その名と全く逆な(これまた失礼!)施設を寮代わりに使わせていただいた。
全部で3部屋あり、すでに2部屋には同じ研修生が。
野菜栽培希望の金子さんと、リンゴをやりたい 杉山さん。
それと他、同期生として小諸市内のアパートに部屋をかり、研修を受ける横田さんがいた。

最初の実習は農業大学校(以下、農大)で始まった。
当たり前だが全てに戸惑いの日々。
だって農業なんて見たことも聞いたこともないから・・・。
ついていくのに実は必死の日々。
表面上は普通にやっているような振りをしながら・・・・・・
農大の先生方には本当によくしていただいた。
5月になると農家さんへ通って現場で研修を受ける「農家研修」が始まる。

まず最終的に波田町(現在は松本市波田地区、以後あえて波田町とする)に就農するということ。
なぜ波田町か。
波田町は妻の実家のある町。
以前から長めの休みをとれば、訪れていて、その環境のよさにひかれて、
ここに住んでみたいというのも理由の一つ。
そして波田町は全国有数のスイカ産地でもあったのだ。

妻の実家は普通のサラリーマンの家庭。
が、妻の伯父が実は町内の篤農家さんだった。
東京に住んでいる頃から、季節ごとにこの伯父さんの農産物が送られてくるのだが、
とにかく美味すぎる!市販のものなどと比較というレベルではない美味しさ。
私はこの義理の伯父である、 百瀬央士さんに、
その次年度から受講予定の新規者就農里親研修での里親さんになっていただくことを お願いした。

とにかく農業というものを全く知らないで農家になるという、しかも40間際に始めるという、
アホ極まりない自分を波田の妻のご両親、里親の 百瀬さんご夫婦、内心思うことはあっても、
ひとまずは快く受け入れていただき、受け止めていただけたこと、
それは今日僕がここに存在するのに不可欠以上のことであったと思う。
心から感謝している。
いや、感謝という言葉だけでは物足りない位である。

さて、話を戻すと、その農家研修が5月から百瀬さんの下で始まった。
3月の面接の時から、ことあるたびに「スイカをやりたいんです」と言っておきながら
実はスイカがどうやってできるのかを一切知らなかったのである(このボケ!)。
今思えば、素人以下のボクを自らの大切な職場である、畑にいれて作業させてくれたのである。
今の自分の畑にその当時の自分のようなヤツがきたら絶対に作業させたくない(笑)。
絶対に!!
とにかく日々全てが初めてのことだらけ。
6月には、せっかくの機会とコーディネーターの 石原さんや百瀬さんに無理をお願いして、
もう一軒、伊藤さん というスイカ農家さんでも平行して研修を受けさせていただいた。

夢中になって研修を続けて、8月、スイカの作業は全て終了。
百瀬さん、伊藤さん、お二人とも秋になると梨やリンゴの仕事が始まる。
自分としてはもう少し野菜について学びたかった。
そこでアタマに浮かんだのは農大の近くの望月町(現在は佐久市に合併)で当時、
有機無農薬栽培で経営を立てていた小宮山天経さんだった。

そしてこの小宮山さんとの出会いが今後の農業感へ大きく影響を与えることとなる。

小宮山さん に出会ったのはさかのぼること、4月だった。
研修の一環としてコーディネーター の石原さんが「先進農家視察」として、
我々研修生を何度も県内の優秀な農家さんのもとへ視察に連れて行って下さった。
そして4月に訪れた先が小宮山さんのところだった。
小宮山さんの農園に訪れた瞬間、そこら中に無数の「足あと」がベタベタと見えた。
正確に言うと、その「足あと」は目に見えない「足あと」、
言い換えればそれは「生き様」そしてその軌跡。
小宮山さんご夫妻は今の我々のような研修制度が無い環境のもと、二十歳そこそこで、
その土地で農業を始め、より条件の厳しい有機無農薬栽培で結果を出した。
それまでの苦労や努力が肉眼では見えない「足あと」として僕は感じ取り、
小宮山さんという人間にひたすら興味を覚えた。
秋からの研修をお願いすると、小宮山さんは快く引き受けて下さった。

そして小宮山さんの元での研修の初日。

彼がとうもろこし畑に連れていってくれた。
「土肥さん、これ食べてみて」
小宮山さんはもぎたてのとうもろこしをそのまま差し出した。
戸惑いながら口に含む。
「??????、なにこの味!」
初めてだった。
恐ろしく甘く、そして味が濃い。
衝撃的だった。

とにかく小宮山さんが栽培した野菜はみな甘く、そして味が濃かった。
小宮山さんのもとで研修のある日は小宮山さんのお宅で昼ご飯を出していただいた。
いくら農家といえど時々足りない野菜は買ってくる。
で、それを知らず食べていると小宮山さんの栽培した野菜と買ってきた野菜が区別できてしまうのだ。

その時に思った疑問。

「有機ってなに?」

小宮山さんとはすぐに意気投合、本当に仲良くしていただいた。
また小宮山さんの交友関係先にも積極的に連れていっていただいた。
小宮山さんの経営スタイルは、直接お客様におまかせの野菜詰め合わせを発送するのが中心だった。
その農業のスタイルは自由に感じ、そしてとってもクリエイティブに感じられた。
本当に多くのことを学ばせていただき、なによりも本当に楽しかった。


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